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2次元ヘリウム3の新しい量子相

  同じ物質でも次元を変えるとガラリとその振る舞い(特に低温の性質)が変わります。ヘリウム(He)はこれを調べるのに理想的な物質なのです。これから説明するように 3次元系では見られない不思議な物理現象を 2次元系では見ることができます(3次元の液体・固体 He が見せる興味深い量子現象についてはこちら)。また,銅酸化物で見られる高温超伝導現象も 2次元正方格子上の強く相互作用した電子系が舞台となって生ずることが知られています。同じ 2次元フェルミ粒子系として,我々の 2次元ヘリウム3(3He)系との関連が注目されています。

 現在,我々が興味をもって集中的に研究しているトピックスのひとつに 2次元 3He の低温量子現象の研究があります。我々は He 原子をグラファイトの表面に 1〜3原子層物理吸着させることで理想的な 2次元系を実現しています(詳しく)。特に現在は,1層目に 4He を吸着させ,その上に 2層目として吸着させた 3He 単原子層(下図参照)の性質を調べています。ちなみに,2次元 3He の下地としてこの他 3He 自身や水素分子などのバリエーションがあります。なお零点振動のエネルギーの違い(つまり原子質量の違い)から 3He より 4He の方がより表面近くに吸着されやすいので,1層目に 4He を選択的に吸着させることが可能なのです。

 3He_4He_HP.jpg 

 現在までの研究でわかっているグラファイト上吸着第 2層 2次元 3He の状態相図を以下に示しました。ただし,これは 1層目が 3He のときの相図で 1層目が 4He のときの状態相図は未だ良く調べらていません。今後の重要な研究課題のひとつです。この相図には 6.4nm-2 付近の密度に 4/7相と呼ばれる整合相が存在するという特徴があります。4/7相の名前は 2層目と 1層目の密度比に由来しています。つまり,この相の原子配列は 1層目に対して”整合性”をもつ 3角格子となっています(下図左)。

2nd_3He_PhaseDiagram_HP.jpg

グラファイト上吸着第 2層目の 2次元 3He の状態相図
横軸は面密度で単位面積あたりに吸着した 3He の原子数を表す
また,縦軸は温度(黒丸)と 3He 準粒子の有効質量(青丸)

 4/7相では原子列はほとんど格子点に局在しているのですが, 3He 原子は零点振動が非常に大きいため,隣り合う原子同士の波動関数の重なりが無視できなくて,隣接原子が頻繁にその位置を交換する(原子が入れ替わる)という奇妙な性質があります。さらにその交換過程は 2個の 3He 原子が交換するだけではなく,下の右図が示すように 3つあるいは 4つの隣接原子がリング状に位置交換しているということが分かってきました。これをリング交換相互作用(あるいは多体交換相互作用)といい,その性質は3次元固体 3He で詳細に調べられています。フェルミ粒子が交換すときスピン間には実効的に交換相互作用が働くことが知られています。

4_7_HP.jpg 2nd_3He_exchange.jpg

4/7整合相の構造
3He原子は3角格子を形成している

 


 4/7相が 3角格子であることはその磁性を決定する上で非常に重要なポイントとなります。例えば,以下の図のように反対方向を向きやすい反強磁性的な相互作用をしているイジングスピンが 3角格子上に置かれると,相互作用エネルギーを最低にするスピンの向きの配列は一意に決まらないからです。この状態をフラストレーションが強いといいます。

   spin-liquid32_image.jpg  

 2次元 3角格子という幾何学的なフラストレーションの強さとリング交換相互作用間の競合のために,4/7相は絶対零度まで相転移を起こさず,その基底状態は量子スピン液体という特異な状態になっていると考えられています。これはスピン空間での量子液体状態のことで,中でもギャップレス量子スピン液体という新しいカテゴリーのものとして注目されています[1]。

 現在我々の研究室では, 4/7相だけでなく,その前後の密度域で我々自身が見出した複数の新しい量子相の物理の解明に精力的に取り組んでいます。例えば,3角格子の格子点に原子が存在しない「空格子点」が絶対零度でも安定して存在し,それが量子力学的に隣接格子点をホッピングして動きまわる「零点空格子点」相などです[2]。こうした研究は,具体的には熱容量測定NMR測定によって実験的に調べています。このように 2次元 3He の低温量子物性は豊富な物理を内包していて、そこからいくつかの新しい物理概念が生まれつつあります。

[1] K. Ishida, M. Morishita, K. Yawata and H. Fukuyama, Phys. Rev. Lett. 79, 3451 (1997).
[2] Y. Matsumoto, D. Tsuji, S. Murakawa, H. Akisato, H. Kambara and H. Fukuyama, J. Low Temp. Phys. 138, 271 (2005).

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