異方的超伝導体の研究
超伝導ギャップが運動量空間で異方性をもつ異方的超伝導の発現機構は電子間の強い相互作用に関係していると考えられており、それを調べる手段として STM/STS は威力を発揮します。例えば、不純物原子の周囲で局所的に超伝導が壊れた電子状態を原子スケールで調べることで、超伝導ギャップの異方性を実空間で確認することができるはずです。また、磁場中での量子渦糸格子とその渦芯構造など,従来の実験手法では得ることのできなかったミクロな情報も得られるはずです。我々は、クーパー対の対称性の確定やミクロな引力機構を解明するため、 ULT-STM/STS を使って異方的超伝導体 Sr2RuO4Bi2 と 銅酸化物高温超伝導体 Bi2Sr2CaCu2O8+δ (Bi2212) の表面電子状態を超低温・強磁場中で調べています。
高温超伝導体 Bi2212 の不純物共鳴状態
図1は高温超伝導の舞台である CuO2面の Cu原子の一部を非磁性の Zn原子で置換した Bi2212 試料表面の STM像(a)と STS像(b)です。Zn不純物原子の周りに4回対称の準粒子束縛状態が形成されているのが実空間ではっきり分かります(図中赤丸で囲んだ部分)。この4回対称性は、d波スピン1重項というクーパー対の対称性を反映したものです。
図1 |
Zn不純物を含む Bi2212表面の(a) STM像と(b) V = 0mVでの dI/dV像(30×25nm2, T = 27mK)。 |
この準粒子束縛状態をエネルギー空間で見てみると、図2の赤いデータ点で示したように、フェルミエネルギー近傍に状態密度の共鳴ピークを形成しています。ここで、白抜きのデータ点は、Zn原子から十分遠い場所で観測した通常の超伝導ギャップ構造です。この共鳴ピークは、幅は熱的に拡がるものの、超伝導転移温度(Tc = 89K)近くの 52K という高温まで観測されることが分かりました。しかし、準粒子束縛状態の詳しい理論的起源については、異方的超伝導状態特有のアンドレーエフ散乱、近藤共鳴、状態密度の線型分散関係など諸説あってまだ決着していません。これらを峻別するために、さらなる実験が計画されています。
図2 |
Zn不純物周りの準粒子束縛状態(赤矢印)と、不純物から遠い地点での通常の超伝導ギャップ構造(白抜きのデータ点)を示すトンネルスペクトル。青破線は、T = 1.8K のデータを基に各温度での熱的ブロードニング効果を計算したもの。 |
以上の結果は、本物理学教室の内田研究室との共同研究に基づきます。
[1] H. Kambara, Y. Niimi, M. Ishikado, S. Uchida and H. Fukuyama, Phys. Rev. B 76, 052506 (2007).
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