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グラファイトのランダウ量子化

 グラファイト(黒鉛)は、下図のようにハニカム構造の2次元グラファイトシート(グラフィン)が層状に積層した結晶構造をもち,フラーレンやカーボンナノチューブの母物質としても広く知られた擬2次元伝導物質です。グラファイトには3次元性を保持した単結晶のほかに,高配向熱分解グラファイト(HOPG)と呼ばれる2次元性のより高い多結晶のものがあります。

graphite_HOPG

 グラファイトの電子状態は昔からよく研究されていますが,最近,低温・高磁場中のHOPG試料が示すホール抵抗の振舞いが半導体2次元電子系で見られる量子ホール効果に類似しているという報告がなされたり、グラフィンが新奇な量子ホール効果を示すことが示されるなど、新たな注目を集めています。そこで我々はULT-STMを使って超低温(≦100mK)・高磁場中で単結晶グラファイトとHOPG表面の電子状態を調べ,擬2次元の電子系と正孔系がランダウ量子化される様子を初めてSTS観測することに成功しました [1, 2]。

graphite_DATA

(a)
単結晶グラファイトの微分トンネルコンダクタンス。
曲線はバルク(青色)と表面第1層(赤色)に対する理論計算。
後者の計算では,+25 meVのピーク高が実験データを説明できるよう +17 meVの表面ポテンシャルを考慮してある。
(b)
ピークエネルギーの磁場依存性

 上図(a)に示すように,ゼロ磁場下で測定した単結晶グラファイト表面のdI/dV曲線(電子状態密度に比例した量)はフェルミエネルギー(E = 0)で最小値をもつ滑らかな V字型をしていますが,基底面に垂直に6 Tの磁場を印加すると周期性をもったピーク構造が正負どちらのエネルギー域にも現れます。ピークエネルギーの磁場依存性(上図(b))から分かるように,ピーク間隔は磁場とともに系統的に広がってゆきます。

 グラファイトは層内キャリアの有効質量や密度が低い補償型の半金属なので,正と負のエネルギー領域のピークはそれぞれ電子と正孔のランダウ準位に起因したものだと予測できます。そこで,バンド理論を使ってランダウ準位を計算して状態密度を求めてみると,図(a)の青線のようになって実験データをうまく説明しません。ところが,表面第 1層の状態密度を計算してみると,赤線のように実験データを定量的によく説明できます。なお E = +25 meV付近に見られる大きなピークのピークエネルギーはほとんど磁場変化していません。これは単純な2次元電子系には存在しないグラファイトの結晶構造に特有のランダウ準位です。この実験はその様子を初めて明瞭に捉えた実験でもあります。

 一方,HOPG試料の方は,単結晶に比べてずっと複雑な周期性のピーク構造をもつことがわかりました(下図)。このデータはグラフィン40層からなる有限厚み系に対するグリーン関数計算(赤線)でかなりよく説明できます。ピーク振幅が単結晶試料よりかなり大きいという事実も含めて,HOPGの電子状態が"より 2次元的"であることを示しています。これはHOPGが多くの積層欠陥を内包していること,先の量子ホール効果の振舞いがHOPGでは見られるが単結晶グラファイトでは見られないこととも符合しています。

HOPG_data

HOPG試料の微分トンネルコンダクタンスとグラフィン40層に対する計算結果(赤線)。

 以上の結果は早稲田大学理工学研究科ナノ理工学専攻の塚田研究室との共同研究に基づきます。

[1] T. Matsui, H. Kambara, Y. Niimi, K. Tagami, M. Tsukada and H. Fukuyama, Phys. Rev. Lett. 94, 226403 (2005).
[2] 福山 寛, パリティ20, 29 (2005年1月号, 丸善).

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