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超流動ヘリウム3

 3次元バルクの液体ヘリウム3(3He)は,3 mK 以下の超低温で超流動転移します。その際,フェルミ粒子である 3Heが2個の対(クーパー対)を形成して中心座標に関してボース・アインシュタイン凝縮をおこします。バルクのヘリウム粒子対には近距離では強い斥力,遠距離では弱い引力相互作用が働くために,対形成する原子同士があまり近づかずに有限の角運動量をもつ状態をとります。

 超流動 4He や通常の超伝導(s 波超伝導)は1つの複素パラメータによってクーパー対の状態を記述できるのですが,超流動 3He のクーパー対は p 波スピン3重項すなわち軌道角運動量 L = 1,スピン角運動量 S = 1 という内部自由度をもち,実に 3(スピン部)×3(軌道部)=9つの複素パラメーターで記述されます。そのために様々な超流動状態が原理的に可能となり,実際に A相,B相と呼ばれる2つの超流動相が存在し(下左図),さらに磁場をかけると A1相と呼ばれるもうひとつの超流動相が出現します。

 A相は以下の図のように非等方的なエネルギーギャップを持つため,物理量にさまざまな異方性が現れます。このようにオリジナルの BCS 理論を異方的クーパー対の状態にまで一般化し,超流動・超伝導の知見を飛躍的に高めた功績が認められて,超流動 3He の発見に対し1996年にノーベル物理学賞が授与されました。

He3_superphase     ABM

 ところで,超流動 3He の対生成の引力機構は何でしょうか?超流動超伝導現象の場合,金属中の2電子間にはフォノン(格子揺らぎ)を媒介とした引力相互作用があってクーパー対を形成します(BCS 機構)。ヘリウム原子間に働く引力としては,直観的にはファン・デル・ワールス力を考えたくなりますが,実はこの力はクーパー対形成の主役ではないと考えられています。液体 3He の低温(T < 10 mK) での性質を決める低エネルギー励起は,裸の 3He 原子が着物を着た「準粒子」によって記述できることが知られています(ランダウのフェルミ流体論)。したがって,液体 3He の超流動は準粒子が対形成すると考えなくてはいけないのです。ファン・デル・ワールス引力の大部分はこの準粒子を形成するのに使われます。では何がクーパー対形成の引力機構となっているのかというと,通常はスピン揺らぎ(パラマグノン)だと考えられています。スピンの向きが同じ準粒子間に選択的に引力が働くという考え方です。この引力機構は,スピン3重項状態を安定化し,高温・高圧域でA相が出現することを説明できるという点で有力視されています。ただ,これを直接的に検証した実験はまだありません。

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