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液体窒素(T = 77 K)の超流動?!

 大気解放したガラスの真空2重壁容器(デュワー瓶)に入れた液体窒素は、室温大気中では外部からの熱流入のために沸騰状態にあり、図1(左)のようにブクブクと泡立っています。泡が選択的に生成される場所はデュワー内壁についた傷や塵で、このような場所を沸騰核と呼びます。気体である泡が生成されるには、気液の界面張力が作るポテンシャル壁を乗り越える必要があり、沸騰核周辺はポテンシャル壁がより低くいのです。

l_nitro_1.jpg

図1 (左)室温大気中で沸騰している液体窒素。(右)ヘリウムガスを注入後、沸騰が停止した液体窒素。

  l_nitro_2.jpg

 では沸騰状態にある液体窒素にパイプを入れて室温のヘリウムガスを注入すると何が起こるでしょうか?不思議なことに、ラムダ転移した超流動ヘリウムのように、沸騰がしばらくの間ピタリと停止するのです(図1(右))。まるでT = 77 Kの液体窒素が超流動転移(?!)したかのようなこの現象を専門誌の記事[1]で知った我々は、五月祭企画の実験で、未だよく分かっていないその原因究明に取り組むことにしました。

 沸騰停止の原因としてまず最初に考えられるのが過昇温です。そこでヘリウムガスを注入したときの液温変化を測定してみました(図2(左))。すると予想に反して、ヘリウムガスの注入が始まると液温が低下し、注入をやめると徐々に昇温して最終的には沸点まで戻るという結果になりました。沸点に戻ると同時に沸騰が再開することからも、沸騰停止の原因はどうやら液温の低下にあるようです。注入されたヘリウムガスが何らかの機構で沸騰核の性質を変えるという、もっともらしい説[1]は、この時点で否定されそうです。

 それでは液温低下の原因は何でしょうか?ヘリウムガスと液体窒素の混合エントロピーが原因だとする説や、注入されたヘリウムガスと気液平衡を保つために、液体窒素がヘリウムガスの泡の中へ向かって蒸発させられ、そのときに蒸発潜熱を奪われて液温が低下するという強制蒸発説など、色々な可能性が考えられます。実は、最終的にこの謎を解いたのは、天秤で液体窒素の重量変化を測定するという単純な実験でした[2,3]。

l_nitro_g1.png l_nitro_g2.png

図2 (左)ヘリウムガスを注入したときの液体窒素の液温変化。(右)ヘリウムガスを注入したときの液体窒素の重量変化。

 その測定結果を図2(右)に示します。これを見ると、ガス注入前は外部からの一定の熱流入のために一定速度で蒸発が起こっていますが(自然蒸発)、ガス注入を開始すると重量の低下が加速され、強制蒸発が起こっていることが確認されました。注入をやめると、熱流入によって液温が沸点に戻るまでの間、蒸発速度は自然蒸発より遅くなります。

 このように液体窒素沸騰停止の原因は、“高温超流動”ではなく、強制蒸発のために起こる温度低下であったことが確かめられたのです。この現象は、低温デモ実験や光学実験で液体窒素浴を通して内部を観察するときや、振動を嫌う精密実験などに利用されています。

[1] 鹿児島誠一, 小田嶋豊, 解良春恵, 西村晴子, 滝澤 勉, 固体物理 39, 606 (2004).
[2] 高吉 慎太郎, 穀山 渉, 固体物理 42, 91 (2007).
[3] S. Takayoshi, W. Kokuyama and H. Fukuyama, Cryogenics (2009) in press.

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