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ヘリウムについて

どんなもの? どうやって手に入れるの?
 周期律表で2番目に軽いヘリウム4(4He)原子は、陽子2個と中性子2個からなる原子核のまわりを2個の電子が回る希ガス原子です。単に「ヘリウム」というときは、ふつうこの「ヘリウム4」のことを指し、風船につめるのもこのガスです。空気中にはわずか0.05%しか含まれませんが、米国、カタール、アルジェリアなどから採掘される天然ガスには1%という高い含有率のものがあり、これから冷却精製して取り出します。なぜ地中から産するかというと、放射性元素が自然崩壊するとき放出するアルファ粒子(ヘリウム4の電子核)が周りから電子を奪ってヘリウム4原子に変わり、これが長い年月を経て地下の堅い岩盤に溜まっているからです。ヘリウムは液体になるための引力が気体中でもっとも弱く、1気圧下の沸点はわずか4 Kです(絶対零度より4度高いだけ。これを2次元空間に閉じ込めると約1 Kで液化すると言われている)。ですからその液化は気体の中でいちばん遅れ、1908年に成功しました(詳しくはこちら)。水素分子(H2)はヘリウムよりも軽いですが、2原子分子のため電気的な引力が強くて量子効果を上回ってしまい、沸点は20 Kと高く、絶対零度では固体になってしまいます。

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図1:ヘリウム4(4He)原子。


何の役に立つの?
 極端に低い沸点をもつ液体ヘリウムですが、先端研究には欠くことのできない研究資源です(詳しくはこちら)。じっさい、超伝導、超流動異方的BCS状態(超流動ヘリウム3)量子ホール効果、高温超伝導、巨大磁気効果、グラフェンなど重要な基礎物理学上の発見や実用化された(されつつある)革新的技術の原理の多くが液体ヘリウムで実現する極低温下の実験で発見されたのです。そして、上記の発見すべてにノーベル物理学賞が与えられています。それだけでなく、私たちの健康を支える医療用の磁気共鳴イメージング(MRI)装置も液体ヘリウムなしには使えません。装置内の超伝導電磁石を冷却し続ける必要があるからです。いまや国内の液体ヘリウム需要の半分以上はMRI用途です。じつはヘリウムはガスとしてもとても重要です。風船、気球、飛行船などの用途はもちろんですが、むしろ光ファイバー製造、精密機器の溶接やリークテストなど半導体・ハイテク産業で使われることの方がずっと多いのです。 

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図2:医療の磁気共鳴イメージング(MRI)装置。大きなドーナツ状の部分の中に超伝導電磁石が入っていて、強い磁界を発生する。


最近ヘリウム不足と聞きますが

 このように重要な資源のヘリウムですが、残念ながら我が国ではこれを100%輸入に頼っています(95%は米国から)。ヘリウムガスは一度大気に逃がすと二度と戻りません。ですから私たち大学の研究者は、できるだけ大気に逃がさないようリサイクルシステムを構築して大切に使っています(詳しくはこちら)。平成24年の下半期は、米国プラントの機器不調などが重なってヘリウムの輸入量が激減し、遊園地での風船販売が休止になるなど社会問題になっています。ですが、風船以上に深刻な問題があることは、これでお分かりいただけると思います。ヘリウムも石油のように200日程度の国内備蓄を法令で義務づけるなど、政府が動いてくれるとよいと思います。

ヘリウム自身も面白い
 私たち物理学の研究者にとって、ヘリウムはそれ自体が、たいへん興味深い研究対象です。ヘリウム原子は軽く原子同士の引力もとても弱いので、大きな量子効果(ハイゼンベルクの不確定性原理)のため常圧下では絶対零度でも固化しません。そんなふわふわな液体を2 K以下までさらに冷却すると超流動状態になります。これは、黒板のチョークのような狭い隙間でもスルスルと摩擦なく流れる不思議な液体で、回転させると渦の流れの早さが飛び飛びの値をとる(量子化する)など顕著な性質を示します。これらは、ヘリウム4がボース粒子で、多くの原子がいっせいに最低エネルギー状態に入って液体全体として位相の揃った振る舞いをするためです。ボース・アインシュタイン凝縮とよばれる状態もその一つです。  絶対零度でも液体(量子液体)と書きましたが、液体ヘリウム4を25気圧以上の圧力で圧縮するとさすがに固化します。しかし、固体ヘリウムもやはり特異な性質をもつ物質で、量子固体とよばれます。原子は格子点にじっとしているわけではなく激しく振動していて(零点振動)、たまに隣の原子と位置を入れ替えることすらあります。これを原子のトンネル交換とよびますが、この現象は、原子核の中性子が一つ少ないヘリウム3(3He)の固体で詳しく調べられています。最近、固体でありながら同時に超流動性をもつ状態が固体ヘリウム4 で実現するのではないかという可能性が専門家の間で真剣に議論されています。これを超固体状態とよびますが、私たちは2次元空間に閉じ込めた固体ヘリウム4でこの摩訶不思議な物質状態を実現しようと、いままさに研究中です。 

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図3:超流動状態にある液体ヘリウム4が示す噴水効果(Photo by J.F. Allen (1971))。

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