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宇宙でもっとも低い温度

 ビッグバンで誕生した私たちの宇宙は、直後の急速な膨張に伴う冷却の過程で、少なくとも4回の大きな状態変化(相転移)を経て、今日の姿になったと考えられています。相転移のたびに、新たな種類の“力”が分化して生まれ、その力を媒介する素粒子のバリエーションが増えました。ビッグバンから138億年経った現在、宇宙の平均温度(平均エネルギー密度)は、絶対温度で2.7 K(ケルビン)まで冷却しました。これは、「宇宙背景放射」とよばれる宇宙から降り注ぐマイクロ波の観測スペクトルがT = 2.7 Kの黒体放射のそれと同じだったことから分かりました。ビッグバン以後、約40万年後に3千度にまで冷えた頃の宇宙に満ちていた光が、その後の宇宙の膨張で赤方偏移したものと考えられています。いまの宇宙はこうした光で満ちているので、星の内部など特殊な場所を除けば、ほとんどの場所はこのような極低温になっているのです。

 最近、ブーメラン星雲とよばれる原始惑星状星雲で、超高速で吹き出す一酸化炭素ガスの温度を精密観測すると、宇宙背景放射よりも低いT = 1 Kであることが分かりました[1]。ガスが急速膨張する過程で断熱膨張冷却したためと考えられています。宇宙背景放射より低温の天体はこれまで見つかったことがなく、ここが、観測された中では、宇宙で最も低温の場所です。

 しかし、地球上では、もっと桁違いに低い温度が人類の手で作られていることをご存じでしょうか。それは、約300 pK(ピコケルビン)すなわち100億分の3度という限りなく絶対零度に近い超低温です。この温度は二つのまったく異なる方法で作られました。一つは、1993年にロジウムという金属の原子核がもつ小さな磁気モーメント(磁石)の向きに関する温度(これを核スピン系の温度という)を断熱消磁冷却法で下げたもので、280 pKです[2]。もう一つは、レーザー冷却したルビジウム原子の希薄気体で2011年に実現した350 pKです[3]

 宇宙には超高温、超強磁場、超高真空など人類が作り出せる環境をはるかに上回る極限環境が存在しますが、超低温環境だけは人類の叡智が勝っているようです。

[1] R. Sahai1, W. H. T. Vlemmings, P. J. Huggins, L.-Å. Nyman, and I. Gonidakis, Astrophys. J. 777, 92 (2013).
[2] P. J. Hakonen, R. T. Vuorinen, and J. E. Martikainen, Phys. Rev. Lett. 70, 2818 (1993).
[3] P. Medley, D. M. Weld, H. Miyake, D. E. Pritchard, and W. Ketterle, Phys. Rev. Lett. 106, 195301 (2011).

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